●前兆の無い片頭痛の診断

IHS頭痛分類委員会の診断基準に手を加えたものです。

A. B-D の基準を満たす最低5回の頭痛発作があった

B.未治療ないし治療がうまくゆかなかったという条件のもとに、各頭痛発作は2時間から72時間の持続がある。

C. 頭痛発作は最低限、次の内の2つの特徴がある。

1)【頭痛は一側性である。】片頭痛というものはほとんどが一側性だということになっています。しかし、片頭痛の内の30%-40%は両側性だという報告もあるし、時には一側に始まり次第に反対側に広がる片頭痛もあるのです。ですので、頭痛の場所は、頭痛発作のどのような時期にあるかを考慮して考える必要があるでしょう。それと同時に、頭痛発作の初期であるとか軽度の片頭痛といったものでは、激しい片頭痛発作と区別して考える必要があるでしょう。次のような質問をしてみる事が役に立つでしょう。「頭痛は一側性ですか、それとも両側性ですか?」、「もしも一側性ならば、いつでも同じ側に頭痛が発生しますか?」、「両側性ならば、頭痛が始まるのは、どちらか一側からですか?」、「頭痛は一側だけで、最大の痛みになりますか?」

2)【拍動性頭痛である。】片頭痛患者の50%以上では、時として非拍動性頭痛をきたす、という報告があります。逆に緊張性頭痛の30%で、拍動性頭痛をきたすことがある、という報告もある。痛みが頭痛発作のどのような時期でも拍動性であれば、拍動性頭痛と考えて問題ないでしょう。次のような質問が役に立つでしょう。「どのような性質の痛みですか?」「締めつけるような?押さえつけるような?拍動性?脈打つような?焼けつくような?それとも?」

3)【頭痛はかなりの程度あるいは強度の痛みである。】強い頭痛のため日々の生活に支障をきたすことになります。

4)【痛みは階段の昇降とか、同じことを繰り返す肉体運動により増悪する。】動き回ることを嫌う患者では、肉体運動で痛みが悪化した経験があるのだろうと考えるべきでしょう。「頭痛発作中はたとえちょっとした動作、例えば頚の運動とかしゃがむといった動作、を避けようとしますか?」という質問がいいでしょう。

D. 以下のような症状のうちの最低1つが頭痛発作中にあった。

1)【吐気ないし嘔吐】ここで注意すべきは、吐気を食欲不振と区別しておくことです。食欲不振というのは、神経症や緊張性頭痛の患者にごく一般的に見られる症状だからです。

2)【光過敏症、音過敏症、臭過敏症】IHSの診断基準では臭過敏症は含まれていないのですが、この症状は片頭痛に極めて特異的に見られる症状ですので、含めています。〜過敏症とは、そういった外部刺激によって頭痛が誘発されるために、その刺激を嫌い避けるようになるということです。

【注意】この D 項目では、片頭痛と緊張性頭痛の間で症状にオーバーラップするものがあるため、上記症状の程度は、頭痛の強弱に応じて、軽度、中等、強度の3ランクに区分すべきだという指摘がある。

E. 病歴と理学所見から他に頭痛を引き起こす可能性のある病気を否定できること。

●前兆のある片頭痛の診断

その診断基準は前兆のない片頭痛の診断基準と同じですが、頭痛発作の前あるいは間に視覚障害を含む神経症状を考慮します。

追加質問

上記診断基準の特異性と感受性を向上させるため、そして片頭痛の「パターン認識」を改善するため質問を追加する必要があります。その他の片頭痛に特徴的な症状に関する追加質問で次のような点を質問します。

1) 頭痛発作は月経前後にあるいは排卵時期に周期的に出現するか?

2) 激しい運動を持続した後、徐々に頭痛が現れるか?

3) 睡眠により頭痛が改善するか?

4) 定型的な前置症状、例えば、すぐに怒る、気分がコロコロ変わる、思考や集中力が高揚したり逆に減退する、やたら食物を食べる、臭いに過敏である、といったものがあるか?

5) 片頭痛の家族歴があるか?

6) 食物や臭いや気候の変化あるいはストレスによって頭痛が決まって悪くなるか?

7) 疲労のたまった時、特に過重労働や強いストレスのかかった後で頭痛をきたすか?

頭痛にはより重大な原因疾患があるかもしれないという点に注意を払うべきです。次のような症状がある場合には精密検査を受けるべきです。

1) 今までに一度も頭痛が無かった、あるいは今までにこれほど強い頭痛は経験がない、という頭痛。特にそれが急激に発生した頭痛である場合はなおさらのこと。

2) それまでにも頭痛はあったが、頭痛の頻度や強度あるいは頭痛発作の経過が変わった(これはIHSの基準には準拠したものではありません)。

3) 中年以後になって頭痛がするようになった。あるいは頭痛が長く持続するパターンへとはっきりと変化した。

4) 初めての頭痛であるとか次第に増悪する頭痛が何日も続く。

5) バルサルバ試験(咳をするとか鼻をかむとかしゃがむ)で頭痛が増悪する。

6) 筋肉痛、発熱、全身倦怠感、体重減少、頭皮の圧痛などのような全身症状がある。

7) 神経症状がある。あるいは昏迷や痙攣や意識障害がある。

参考:http://www.cma.ca/cmaj/vol-156/issue-9/1273.htm