頭部神経痛という言葉はあまり一般的ではありません。恐らく頭部に分布する十二個の脳神経の中で神経痛をきたす疾患を総称した言葉でしょう。その中でも代表的な神経痛には次のようなものがあります。

  • 三叉神経痛
  • 舌咽神経痛


よく顔面神経痛なる言葉を耳にすることがありますが、顔面神経には鼓膜の一部を除いては痛みを知覚する神経が含まれていません。従って正しい用語では無く、大抵は三叉神経痛の事を指しているか、あるいは顔面痙攣の事を指しているようです。
  • 三叉神経痛

三叉神経は顔面の知覚を支配する神経です。三叉というくらいですから途中で三本に枝分かれしています。上から順番に1〜3と番号をつけています。
神経分布

三叉神経痛には特発性三叉神経痛と続発性三叉神経痛があります。
  1. 特発性とは原因不明だという意味だったのですが、近年になってそれらの70%では三叉神経根部(神経が脳幹から出た直後の部分)への圧迫が原因であろうという事になっています。圧迫原因となっているものは主に動脈硬化を起こした脳血管ですが、時には脳腫瘍であったりする場合もあります。つまり、この圧迫原因を手術で取り除いてやれば三叉神経痛が治る可能性(約90%の確率だと言われています)が高いのです。
  2. 特発性三叉神経痛はこれら三つの枝の内、II-III枝に多く発生し、I枝にはほとんど発生しません。
  3. 痛みの特徴:特発性三叉神経痛の症状は、短時間の焼けつくようなえぐられるような痛み発作(数秒から数十秒)が何度も繰り返して発生します。しかしこのような疼痛発作が無い期間は顔面の知覚低下なども無くまったく平穏に経過します。そのような発作間欠期でも、冷たい風に当たるとか冷たい水の飲むといった寒冷刺激で痛みが誘発され易く、また、例えばヒゲ剃りをすると痛むことがあるといった、触ると痛みを誘発させる場所がある場合もあります。三叉神経は歯に分布しているため、ムシ歯の痛みと間違われることもあるようです。
  4. 特発性三叉神経痛の治療:内服剤としてカルバマゼピン等の抗痙攣剤を使います。それでも効果が無い場合には前述の手術療法や三叉神経ブロックを考慮する事になります。

続発性三叉神経痛は他疾患に伴い、あるいはその部分症として三叉神経痛が現れたもので、例えばヘルペス後に発生した三叉神経痛や混合性結合織病(MCTD)などがあります。続発性三叉神経痛は発作性の痛みでは無くて持続性の痛みです。特発性と続発性では一般的に治療法についても異なります。
  • 舌咽神経痛

この場合の痛みの部位はのどの奥です。三叉神経痛と較べてずっと頻度が低い神経痛ですので詳しくは書きません。

除神経後痛

この言葉は比較的最近創作されたようで、以前は除神経痛という言葉をよく使用していました。どういう痛みかと言いますと、神経の一部が損傷あるいは断裂してしまい、その断裂後数ヵ月の経過で断裂してしまった神経の支配領域に痛みを感じるようになるものです。

代表的な疾患は幻肢痛でしょうか。つまり、事故などで失ってしまった手足、無いはずの指などが痛むものです。もっとも頭部でこういった痛みが発生することはあまり多くありません。ヘルペス後三叉神経痛や三叉神経ブロック後などに合併症として発生しうる可能性のあるanesthesia dolorosaなどでしょうか。

この痛み対しては一般に特に有効な内服剤はありません。神経ブロックなり電気刺激療法が試みられる事があります。