日本語では「めまい」と云いますが、例えば英語の「Vertigo」、「Dizziness」、「Faintness」はいずれも 「めまい」となってしまいます。これを図にしますとこのようになりますでしょうか。
scheme1

つまり、回転性めまい(Vertigo)、動揺性めまい(Dizziness)、失神性めまい(Faintness)となります。

しかし「めまい」と一口に言っても、世間ではいろいろな症状を「めまい」と表現しているようです。例えば
  • 横になっていても回転感を伴って吐気・嘔吐が強いもの
  • 横になっていても回転感のみで吐気・嘔吐を伴わないもの
  • 立ち上がろうとすると短時間の浮遊感があるもの
  • 歩く時にまっすぐに歩けないもの
  • まっすぐに歩けるが浮遊感の伴うもの
  • 気が遠くなりそうになるもの

これでは漠然とし過ぎていて「めまい」が意味不明言葉になっています。
そこで、医学的に重要だと思われる「めまい」を決めて先に進みます。

回転性めまい、と、失調性めまい、をいっしょにして「医学的めまい」などと表現する場合があるようです。この立場にたつ場合、医学的めまい以外は「めま い」とは云わないようです。一見すれば扱いを狭くする方が考えやすくなりそうですね。

【注意】最近、精神科の方で失調を冠した病名を新調したようですが、それとは何の関連性もない古くからの意味での失調で す。

でも、実際はそれほど簡単でもないのです。
  • ところで、回転性めまい、と云えばどのような「めまい」を思い浮かべられるでしょうか。これも恐らく人によってさまざまな答 えがあると思います。何が言いたいのかと申せば、回転性めまい、ではないものを、回転性めまい、と呼んでいる場合が実はかなりあるのだろう、ということで す。 これには反論もあるかもしれませんが、取り上げません。
  • さらに続けると、失調性めまい、と云えばどのような「めまい」を思い浮かべられるでしょうか。お気づきの方もあるでしょう が、動揺性めまい、とは微妙に異なります。動揺性めまい100人を調べてみたら、失調性めまいが5人いた、と云えば分かり易いでしょうか。つまり動揺性め まい、と、失調性めまいはよく似ています。
  • これに加えて、失神性めまい、もあります。これにも医学的に問題になりそうなものと、そうでもないものがあります。 Faintness(失神性めまい)とするなら、Syncope(失神)なので、失神という言葉とは区別した方がいいでしょう。

かくのごとく言葉の意味が曖昧です。医学的に定義できる症状なりから説明を始めないと阿鼻叫喚の世界になってしまいます。でも、そうやって定義できるの は、ごく一部に過ぎません。真っ暗闇の中に互いに離れた三本の街燈がわびしく灯っているというところでしょうか。燈火の元から少し離れると、わけのわから ない、「めまい」の世界が広がっているのです。それを医学的めまいでは無い、と片づけてしまうのは簡単なのですが。

以下、しばらく動揺性めまい、について考えてみましょう。


動揺性めまい


読んで字のごとく「フラフラするめまい」です。通常、歩行時にフラフラとします。吐気を伴う事はありますが、嘔吐を伴う事は原則ありません。
scheme2

図に示すように、失調性めまいも「フラフラするめまい」です。ですが、フラフラの程度が強い。丁度アルコールを呑むとフラフラしますが、あれですね。失調 性めまいは医学的めまいになる、と申しますのは、その原因が末梢神経から小脳まで、一般的に神経系に原因があるからなのです。

ところが、失調性めまいではないが、動揺性めまいを呈する場合が多いのです。数の上から云えば、フラフラするめまいは九分九厘、こちらのめまいと思ってい いです。それらが全て医学的めまいでは無い、と言い切ってしまえれば話は簡単です。
しかし、医学的めまいになるなぁ、と云うものがあります。
そうなると、どの程度失調性めまいの周囲を医学的なめまいと捉えるかです。その辺りになりますと、失調性めまいと云う燈火の中心から離れてきて、たそがれ 時の雰囲気になっています。かなりぼんやりとしていて、指先確認が必要になります。
  1. 失調性めまい。
  2. 失調性めまいでは無いが、医学的めまい。
  3. 失調性めまいで無く、医学的めまいで無く、単なる動揺性めまい。

まあ、この程度に考えておけばよいのではないかと存じます。話を具体的にするため、多少の例を上げます。

(1)は中枢性、末梢性に分けられます。

(1)-I 中枢性失調性めまい・・・小脳梗塞、脊髄腫瘍、脊髄小脳変性症、等

(1)-II 末梢性失調性めまい・・・糖尿病、アミロイドーシス、等

この辺りは、掃いて捨てる程沢山の病名があります。めまいを照らす燈火の光も明かるいので、大抵の場合は何らかの病気に行き当たります。でも(3)になる とそうは行きません。

(3) では病名に行き当たるとは限りません。それを不定愁訴と切って捨てても、面白みがないのでできる限り分けてみる事にします。

(3)-I 肩凝り
  • 年を重ねてくると増えてきます。慢性頭痛を伴っている場合が多い。

(3)-II 慢性睡眠不足
  • 最低でも3日以上の睡眠不足。時として睡眠不足を呈する疾患、例えば、鬱病だったりする。

(3)-III 運動不足
  • 若い人では無く、高齢になり足腰の筋力が衰えた場合です。あるいは病気などで長期の臥床を余儀なくさせられた場合。

(3)-IV 不安神経症のような精神科疾患
(3)-V その他

精神科を専門としている人から見れば、(3)-IVのような場合は (2) に繰り込むべきなのでしょうね。それはそれとして、以下(2)になりそうな例を上げておきます。
(2)-I 頚椎疾患、等
(2)-II 甲状腺疾患、慢性心不全、等
(2)-III 軽い片麻痺、軽いパーキンソン症候群、等
(2)-iV その他

2006年:転載禁止


失神性めまい


これは失神とは、はっきり区別しておいた方がいいでしょう。失神は意識を失いますが、失神性めまいは、「気を失いそうになる」、あるいは「フーッ」とする めまいで、意識を失う事はありません。Faintness という言葉として存在するので、よくある症状ではあるのでしょうが、医学的にあまり重要な症状とは言い難いようです。ただ、時として、実は失神しているの に、本人が失神中の事を覚えていないために「気を失いそうになる」といった表現になる場合もあり、注意が必要ではあります。

低血圧、貧血、低血糖、慢性疲労、精神的不安、等


回転性めまい

下記の代表的三疾患につき、その障害部位と想定されている場所を示します。

vertigo_pic

メニエール病

回転性めまいが反復性、発作性に起こり、難聴、耳鳴を伴う。内リンパの水膨れ(特発性内リンパ水腫)のためとされる。

良性頭位めまい

特定の頭位で一過性に起こる回転性のめまいで、難聴、耳鳴を伴わず、予後は良い。耳石の一部が三半規管の膨大部稜に沈 着するためとされる。

前庭神経炎

上気道感染あるいは感冒症状が先行することが多く、突発的なめまいの後にふらつき感が持続するが、難聴、耳鳴は無く、 予後は良い。ウィルスによる前庭神経の炎症によるとされている。


末梢性めまいを引き起こす疾患には、他にも下記のようなものがあります。

炎症性疾患

中耳炎などの炎症性変化が内耳に波及した場合等

突発性難聴

一時的な回転性めまいを伴うことがある

薬物による内耳障害

抗生物質やてんかんの治療薬、アルコール等の薬物により平衡感覚細胞が障害を受けたために起こる